コラム特集
「パイプマスターズとWSL、VANSの関係性(前編)」 - F+コラム
Text by つのだゆき、Photo by snowy11月20日付のTHE SURF NEWSの記事で、ジョシュア・モニーツのインスタネタのパイプマスターズに関する記事が出ているけど、なんかちょっと違和感を感じる。
写真はなつかしいけど(笑)。左からサニー・ガルシア、ブルース・アイアンズ、ジェイミー・オブライエン、カラニ・ロブ。まだASP、古き良き、ラフで自由な時代。
ジョシュアの論旨(あるいはこの記事の書き手の感覚?)としては、パイプマスターズというイベント名の使用権を持っているVANSが大会にいろいろ手を加えて、元のパイプマスターズの価値観から逸脱している、という嘆きなわけだけど、ヴァンズの肩を持つわけではないけど、これはちょっと表面的過ぎるというか、いきさつを知ってのことなのかなぁ、私はそこ違うかなぁ、と思う。
35年の長きにわたりパイプラインマスターズ、あるいはパイプマスターズを現場でこの目で見てきたものとしては、表面的な出来事として現在起きていることは記事、あるいはインスタにある通りだけど、なぜそうなったかを考えると、あながちヴァンズのせいばかりとは言えないと思う。ジュリアンがボソッと言ってるけど、WSLは手放すべきでなかった、というのはシンプルに正しいと思う。
ASPからWSL体制になったときの大変革で、長い年月の間に築きあげられてきたサーフコンペの歴史的価値やハワイの特殊性やプライドのようなものはズタズタにされ、捨てられた。というか、あの当時のWSLは過去のものはすべて消し去って、自分たちの王国をその上に作る、という感じだった。それはパイプマスターズもトリプルクラウンも例外ではなく、そんなものはWSLには不要なんだ、という強気な感じだった。
例外部分で残ったのはアメリカという国の中にもうひとつハワイというリージョンを認めるという問題ぐらいで、あとはすべて、世界中でWSLの決めたやり方が優先された。
ハワイというのはサーフィン発祥の地でもあるので、ある種特別で、ローカル色の強さも近年まではそれがウリというぐらいだったし、ASP時代からコンテストフォーマットやワイルドカードの数やトライアルのやり方や、ここだけ(特にパイプ)違うことがたくさんあったし、それは長きにわたって許されてきた。でもWSLになったら話は違う。WSLツアーとして、ほかの試合と同じように、コンテスト名の命名権はWSLが販売する。パイプマスターズはすでに使用権を持っている人がいるので、買い取らないと使えないということになる。
パイプラインマスターズなのか、パイプマスターズなのか、この辺もひと悶着あったと記憶しているけど、まぁ、WSLと使用権所有者(当時のそれがヴァンズ)の間でその売買の話が出たことは確かだ。ASPの影を消すことにやっきだった(そう見えた)WSLは、だったらそんなものはいらん、と使用権売買の話を蹴ったと聞いた。まぁ、ヴァンズがそれをどのぐらいの価格に設定したのかにもよるけど、パイプマスターズ、トリプルクラウンを捨てる、というのは大きな決断であることに変わりはない。
ハワイを仕切っていたのはランディ・ラリックという人で、ハワイの試合でランディ知らないはモグリだった。もう引退して久しいけど、私はけっこうランディとは仲良しだったので、いろんな話をオンタイムで聞くチャンスに恵まれた。その中にこのWSL、パイプマスターズ、トリプルクラウン問題も入っている。まぁ、ランディサイドからの意見としてだけど、現地で見ている分にはランディの言っていることは正しい情報のように思えた。それ以前にいつ誰の手を経てパイプマスターズ、あるいはトリプルクラウンの名義使用権がヴァンズのものとして確立したのかは記憶に定かではないが、ASP時代のことだ。そもそも名義使用権みたいなビジネスライクなものは、だいぶあとで誕生したものであり、それまでは習慣的に使われていたと思われる。もしかしたらASPからWSLへの移行のどこかのポイントでヴァンズが登記したのかもしれない。
最終的にはWSLがそれらを捨てたことで、持っていたヴァンズの手に残ってしまった、といったほうが正しいように思う。
当時そのニュースを聞いた私は、え、じゃ、どうするの? と思ったほど、ハワイのシーンにとってパイプマスターズとトリプルクラウンは大きく永遠と思えるものだった。
ただ、実際にはパイププロはギャラリーにとっては相変わらずパイプマスターズだったし、トリプルクラウンはトリプルクラウンとして存在し続けた。問題は、このヴァンズの手に残ったパイプマスターズとトリプルクラウンの名前の有効活用だ。その模索の過程で今回のような変革を余儀なくされたというべきかと思う……後編に続く。
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