コラム特集
「デーン・レイノルズはCT選手としてどうだったの?」- F+コラム
Text by つのだゆき、Photo by snowy質問
最近、改めてテイラー・スティールの「campaign2」を観ていて考えたのが、もし、デーン・レイノルズがザ・コンペティターだったら……ということです。やっぱり、彼のポテンシャルはスゴいものがあるし、当時のマニューバーが今観ても色褪せていない。ケリーの11×までは、無理だったにしても、ジョンジョンやガブを今だに抑える存在だったかもと思ったのですが、ユキさんは、彼のポテンシャルをどう見ていましたか?
う~ん、ザ・コンペティターでないからこそあのサーフィンが生まれたのかな、と思うけど、同時にあの時代に今のジャッジクライテリアだったら、デーンはもう少し勝てたかな、とも思う。
改めて過去の写真を見直してみて、2008年とか2009年とか、今から13、4年も前にこのサーフィンってすごいよな、と思った。ボードの性能だって今とはだいぶ違うはずなのに。
近年サーフィンはものすごく進化してるとは思うものの、デーンを見るとそんなでもないかな、とか思ってしまう。そのぐらいデーンのサーフィンが時代に対して早かったことは確かだ。そしてそのリスキーなマニューバーの本当のリスクの高さを、当時は誰も正当に評価しなかった。
試合ではワイプアウトすればどんなすごいことにトライしても、トライポイントは評価されない。同じ波でバレルに入って、あと50センチバレルにとどまろうとして出口でワイプアウトなら3点、50センチ手前で無難に安全に出てきちゃえばエクセレント。あるいは、掘れた難しい波にチャージしてワイプアウトなら1点、イージーな波に合わせてバレル内を走りぬけてエクセレント。この辺はいつまでも納得のいかないジャッジングの矛盾点だし、解決方法は見当たらない。採点の正しさには限界があるのが試合だし、その条件で戦うのがコンペティターだ。
サーフィンというのはとても芸術的な自己表現が可能なスポーツだけど、それを採点評価する、という時点で普遍的なスケールにはめられることから逃れられない。
どんなコンディションでもオールラウンドに淡々と危なげないサーフィンをする。それはエンターテインメントとしてはつまらないけど、コンペティターとしては優秀だ。
デーン・レイノルズという人はそれを嫌った。あの時代に試合でイチかバチかをやり続けた。まぁ、その流れはジョンジョンとかにつながっていて、ジョンジョンとデーンはとても共通点が多い。ジョンジョンもそこでそんな無理しなくていいのに、なんでやるかな、みたいなことで長いこと負けていたが、ロス・ウイリアムスと出会って、勝つためにそこを押さえることを理解した。それと同時に時代がジャッジを変え、リスクを払ったマニューバーに配点するようになったのは、ジョンジョンにとっては幸運だった。やはりデーンは時代に対して早すぎたんだろう。
デーンといえば林健太プロ(お元気ですか~?)のいうところのクルリンパ。
このシークエンスのように掘れたポケットに猛スピードで突っ込んで、腕まで使って急ブレーキ、思いきりテールをけり出して、ノーズをフェイスに差し込み、そこを起点にテールを回してリバースさせて回り下りる、というのがトレードマークマニューバーだけど、腕を使ってまで強引に入っているレールとその切り替えのタイミングを見れば、彼がどれだけレールワークにたけたサーファーかがわかる。
ボトムターンの写真1枚とっても、彼の目線上にある、これから上がっていこうとしている波のセクションの掘れ方がすごい。今でもこのセクションを狙うこれだけのボトムターンって、そうは見ない。13年前の写真ですよ、これ。
どういう発想でああいうマニューバーにトライしようと思ったのかはわからないけど、ものすごく創造的であることは確かだ。勝つのに2点必要なのにこのセクションでクルリンパをやるのは、コンペティターなら大間違い。エンターテイナーなら大正解。そしてデーンはそのどちらでもなく、この波のこのセクションならこれがやりたいからこれをやる、という選手だった。自由、頑固、わがまま……何でもいいけど「ザ・芸術家」の感じ。他人がつける自分への評価、コンペティターの場合はジャッジのポイントとか、クライテリアになるが、そんなことはまったく気にしない。あるのは自分の価値観に基づくサーフィンだけだ。
コンペティターなら絶対必要な、何点必要だからどの波にのる、そこで何をする、みたいなことは一番の苦手。面白そうな波だから乗ってみる、を試合でして負けた。きっとそれ以前に、何時に集合とか何分でおしまいとか、そういう管理すらされたくなかったに違いない。
質問の答えとしては、デーン・レイノルズは「ザ・コンペティター」ではなかったから、デーン・レイノルズだったんだと思う。もしデーンが「ザ・コンペティター」だったら、枠から大きくはみ出ない、つまらないサーファーだったのではないだろうか。
あのサーフィンに対する自由な発想や才能はもったいないとは思うけど、「ザ・コンペティター」で彼のモチベーションが続いたとも思えないので、あれしかなかったのかな、と思う。コンペティターが勝つためには、技術のほかに必要な要素がいくつもあるが、最もキープが難しいのが、勝ちたいというモチベーションの維持だ。
余談だけど、デーンはおかしくもないのに笑う、という作り笑顔が苦手で、ファンに写真をせがまれるのが嫌いだった。しかしいやだと断るわけにもいかないので、当時のGFに相談すると、イーって口を開ければいいのよ、と言われてその通りにしていたのが今でも印象に残る。愛想笑いすらできない不器用な人が、力抜いて2点を取りに行くことはないよね(笑)。
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