コラム特集
ケリーが登場![WSLディベート第20回]-F+(エフプラス)
Text by つのだゆき今回はミックに代わってケリーが登場。ロスとは仲のいい友人同士で、序盤の何の話をしようか、のくだりで仮想通貨の話に乗ってきたあたりがケリーっぽいというか、振ったロスがさすがというか。ケリーの頭の中は投資家モードだからな。
ケリーという人は理論家というか分析家というか、対戦相手としてのコンペティター分析は非常に的確で聞いていて飽きない。30年以上にわたる近代サーフィンの歴史も彼自身が歩いてきた道なので、知識もバッチリだ。まぁ、空気は読まないと思うし、読んだらつまらないので、仕事としてのコメンテイターには向かないかもしれないけど、裏チャンネルなら(笑)。
さて、ココが冒頭で言ったように、よく考えたらオーストラリア4試合のメンズ優勝者は全部ブラジル人。イタロ、ガブ、フィリッペ、ガブ。まぁ、あの波であのジャッジするならああなるだろうな、とは思うけど、30年前ぐらいから徐々にオーストラリア、アメリカに次ぐ第3勢力になり、今やシーンを圧倒する存在になったブラジルに対抗できるのはどこなんだろう。当分はブラジル黄金時代が続きそうだと思う。今回面白いのはライバリズムの部分かね。史上最強のライバリズム、ケリーとアンディの真相をご本人様が語る。まぁ真相とはいえ、一方的にケリーサイドの話なので、アンディがどう思ってたかは別の話ですけどね(笑)。最後の2エピソードもライブ感満載。相変わらずケリーのジョークは本人が思ってるほどウケないですけど(笑)。この人こういうの、話すより書いたほうがいいいと思うな。彼がニュースクールだったころのあくの強いオールドスクールとの確執話は、けっこういろいろある。
ではロスとケリーのディベート第20回、行きましょう。
1:ガブ、イタロ、フィリッペのほかに、ジョンジョン以外でワールドタイトル取れそうなのは誰か。
ケリー:難しい質問だね。例えばグリフィンとか、トップ5に入れれば決戦はホームスポットのロウワーだから波もよく知ってるし有利だとは思う。正直なところ彼ら以外には誰も浮かばないけど、あのフォーマットならグリフィンにもチャンスはあるといえるかもしれない。
ロス:そうだね。僕も同じ。今のところトップ5にはモーガンが入ってるけど、グリフィンとかカノアは上がってくるかもしれない。彼らはサーフランチでのサーフィンもいいし、メキシコとかでも自信をもってやれるはずだ。今シーズンはいろんなことが起きるシーズンになるんだと思う。トップ5に入れれば、グリフィンにもカノアにも25-30%ぐらいの可能性があるといえるかもしれない。
ケリー:グリフィンはパワフルで、特にフロントサイドのほうがいいと思う。問題点をあげるならフィリッペも同じだけど、スピードの違いかな。
ロス:ロウワーでは波の選択も大きく勝敗に影響するし、いいパフォーマンスが求められる。そうなるとイタロ、フィリッペ、ガブだけど、アンダードッグになるだろうコナー・コフィン、カノア、グリフィンあたりの中では、魅せるという部分でグリフィンが少し勝るように思うので、グリフィンなのかなと思う。
2:モーガン・シビリックは最終的にトップ5にとどまれるか
ロス:15位ぐらいに落ちるよとは言いたくないけど……新人には頑張ってほしいからね。90年代のシェイ・ロペスみたいにいい波を取る。彼は最強の新ウエイブマグネットだ。サーフランチはそのウエイブマグネットぶりを発揮する場所ではないし、あそこの波をよく知ってるとも思えないので、いい成績を期待するのは難しいと思う。もし彼が上位に食い込めば、それは超驚きだね。
ケリー:個人的には彼が最終的にトップ5に入るかどうかは疑問だけど、サーフランチの波はとりわけ難しいわけじゃない。でも同じような波とはいえ、風なんかが影響すれば違ったものになる。その辺を合わせるのはグリフィンやカノアが特にうまい。彼らはトップ3と共にQFまでは行くだろうなと思う。モーガンは最終的にはトップ10あたりに入れると思うし、それはルーキーイヤーにしては上出来だ。
ロス:そうだね、彼は夢のようなシーズン序盤をスタートした。でもガブリエルとのファイナルはその先の難しさを象徴してたかもしれない。彼がハイスコアを出すにはサイズのあるプレミアムな波が必要だ。それでエクセレントレンジのサーフィンができる。ただモーガンがその波を待つ間に、ガブリエルはあらゆる波でアリーウープやエアーセクションを探し、スコアをあげていく。それらのテクニックがあるのはものすごく有利だ。そこがモーガンに対して「?」と思うところ。ガブリエルやフィリッペ、イタロと戦うにはエアーでも対抗できないと厳しい。
3:今のところガブリエルとカリッサがだいぶリードしているけど、彼らがワールドタイトルを取れないってことがあるのも新フォーマットの特徴。それはツアーにとっていいことか、リスキーなことか?
ケリー:それが今コアなファンや長いことツアーを見てる人々の間での論争の的だよね。もしガブリエルがファイナルズで優勝できなくて、ワールドタイトルを逃したら、それこそ大論争になると思う。そうなることへの必然性を説明するのは難しい。シーズン中に誰を相手にどれだけ勝ったとかじゃなくて、ただ1日のスーパーボウルに勝てばいい、って話だからね。
ロス:これはツアーをよりよく変えられるかもしれない可能性を秘めたシステムといえるんだと思う。もっと多くの注目を集められるし、スーパーボウルのようにエキサイティングだ。そして選手たちにはより強いプレッシャーがかかる。ファイナルズはステップアップのひとつだと思うし、とてもエキサイティングなものになると思うね。ツアー最終のランキング1位にはワールドタイトルとは別の、例えばケリー・スレーター・トロフィーとかマーク・リチャーズ・トロフィーとか、別の賞と賞金を用意するのがいいと思う。確かゴルフがそういうのやってたと思う。だって10か月のツアーで最終的にリードをしてたんだから、それは評価されるべきだ。問題になってるのは10か月かけた結果が1日で変わるってことだと思う。だからこそ、10か月の結果にも評価を与えるべきだ。
ケリー:その特別賞のアイデアはいいね。ツールドフランスでの特別なハットやイエロージャージみたいな、そういうのは必要だ。トラッスルズはハイパフォーマンスが可能な波だからフェアだとは思うけど、僕は最終戦がパイプってのが気に入ってる。サーフィンのルーツ、歴史、命がけのチャージ、そういうことを考えるとあの波はエキサイティングだ。だから僕らはチョープーも好きなんだ。でも誰かが少しいい2フィートの波を取ったからワールドタイトルって話になると、それはちょっとこのスポーツをよく知るコアなファンには受け入れがたいところだと思う。でも別のトロフィーってアイデアには賛成。
4:強烈なライバリズムがなくなったことでツアーは面白くなくなった?
ケリー:人と人との敵意をむき出しにした戦いってのは、見ててエキサイティングだ。格闘技とかでよく見るけど、ものすごい緊張感が走る。でも戦いが終わればハグしたりハイファイブしたり、お互いをたたえあう。リングを出れば、海から上がればそれはおしまい。でも時にはリアルにいがみ合ってるふたりの戦いも、見てる分には面白い。後年になってから僕とアンディは友人になったけど、実際には本当に嫌い合ってた時期がある。僕の友人がアンディとも友人だったりすると、何であいつと友達でいられるんだ、みたいな(笑)。もちろん彼も同じように思ってたと思う。壁を作って、相手のことを知ろうともしなかった。弱点を探して、怒らせようとばかりしてたと思う。
今は例えばジョンとガブリエルはライバルだけど友人だ。でも時に敵意をむき出してひとつのものを争うこともある。
デレク・ハインドが昔トップ44のレビューとかやってた時に、ライバルのことも書いてて、シェーン・ドリアンにこの人が君のライバルみたいだけどって聞いたらしい。シェーンはその相手の名前すら知らず、それ、誰? そいつと試合で当たりたいって答えたらしい。そしてヒートで当たったら、シェーンはコテンパンにやられた。僕ら仲間内はそのことをみんなが知ってて、超笑える話だって思ってた。シェーン自身も思い出して笑う。でもそういう敵意あるふたりの戦いっていうのは興味がわくものだよね、
ロス:君とアンディ、完ぺきなサンプルだね。特にアンディ側の敵意は相当だったと思う。アンディにはちょっとダークサイド的な部分もあったから。ファンとしてはそのライバリズムは見ててとても面白いものだった。パフォーマンスだけじゃなく、もうひとつの要素としてね。最近は表立ってそういうことを言う選手もいないから、強烈なライバリズムは消えたように見えるかもしれないけど、ジョンジョンとガブリエルはライバル関係にあると思う。トム・カレンとオッキー的な感じかな。サーファーとしても違うし、サーフィンそのものも違う。カレンは流れるようなサーフィンだしきれいなスタイル、物静かな男。オッキーはもう少し社交的だし、サーフィンも全く違うスタイル。レギュラーとグーフィー、それらの比較のコントラストはファンにとって興味深いものだ。ライバルと言ってもいつも双方で悪口を言い合う必要はないんだ。まぁそれはそれで面白いわけだけど。
ケリー:ジョンはおとなしい物静かな男だ。ガブもあまり多くは語らないけど、水の中じゃ悪魔的だ。どんな手を使っても勝ちに来る、最も冷酷なコンペティター。あのタイプはそう多くない。僕が戦った記憶の中では、ロビー・べイン、ポッツ……ほんの数人だけ。ジーク(イズキール・ラウ)がベルズでジョンに対してそういう感じだった。普通に行ったら勝てないのを知ってて、いろいろ言われるのも覚悟のうえであの方法を選んだんだと思う。
ロス:そう、だからライバルに敵意はマストじゃないんだよ。ガブはジョンに比べてよりコンペティティブだと思う。いつも状況を正確に分析して、どうやって勝つかを考える。ジョンはもっと自然体で、自分のサーフィンに大きなプライドを持ってるし、一番いいサーフィンをしようとする。結果的にそれが勝ちにつながることが多い。
ケリー:最後にふたつエピソードを。
ひとつは1990年にフランスのホセゴーでガーラックと当たったときのこと。彼がリードしてて、僕は何本かミスして、必要だったのは5点ぐらい。プライオリティは彼が持ってた。そこにパーフェクトな波が来た。そのヒートでのベストウエイブ。その時ガーラックがまっすぐ僕のところによってきて、お互いに波にパドル、僕から見て彼は波を逃しそうだったから、僕は彼のインサイドでパドル。で、彼は波をミスして僕が乗った。テイクオフしたとき、自分の運の良さが信じられなくて笑いが出そうだった。だって普通にこの波に乗れば勝てたから。そうしたら彼は後ろで、出せる限りの最大の声でFxxK(ピー音)って絶叫。僕はレールを刺してちゃってワイプアウト。そのヒートは彼が勝った(笑)。なんだよ、みすみす自爆かよって(笑)。
もうひとつはポッツ。90年代、たぶん94年かな。覚えてるかどうかわからないけど、彼は当時ツインザーってのに乗ってた。フィンが4本ついてるやつ(ツインフィンに小さいフィンがふたつ追加されたもの)。波は小さくても面白いライトで、風で掘れる感じ。だからこのコンディションなら勝てると思った。序盤僕がリードしてたけど、ポッツがいいライディングをして沖に戻ってきた。雨で寒くてビーチには誰もいなかったし、もちろんラインナップにも誰もいない。でも彼は今の僕とこのコンピュータの距離よりも近くに来て、肩と肩が触れ合う距離に座った。僕はとにかく、このテンションには付き合えないと思ったし、彼にはその前年か2年前ぐらいにラカナウで勝ってるから、ちょっとそのテンションはカンベンだった。とりあえずジョークでもかまそうと思って、そのときMCがマーティン・ポッター、ユー・ニード・ライク・ア・ワンポイントスリー、とか言ったから、出せると思う? みたいに聞いた。とにかくその緊張感を破りたくて……でもすごく怖かった。だってポッツってあの感じで、でかくて毛深くて怖いじゃん。マジ怖かったなぁ(笑)。
30年もツアーにいればこんな話はいくらでもあるよ(笑)
≫ミックとロスのディベート「Getting Heated」 記事一覧
BCM の Facebook に「いいね!」をしよう
※当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載及び複製等を禁じます。