コラム特集
“US OPEN”日本人初の快挙の裏側(インタビュー編)
2013年の秋から2014年の冬にかけて3回に渡ってお届けした「Hurley Japan」チームマネージャー・糟谷修自、大橋海人、大原洋人へのQ&A。
他のスポーツでは常識になっていコーチングのシステムを導入して世界の舞台を目指している彼らの取り組み。それが2015年の夏にCT第8戦『Hurley Pro at Trestles』のワイルドカード、『Vans US Open of Surfing』の優勝という形で成果が表れてきました。
今回は『Vans US Open of Surfing』の直後、いまだ興奮覚めやらぬ状況の中、大原洋人×糟谷修自にQ&A。
ライブ中継だけでは見えなかった裏側、そしてこれから控えている『Hurley Pro at Trestles』などについて質問をぶつけてみました。
■BCM
まずは、なんといっても『US Open』の優勝です。
偉業、快挙、日本はこの話題で持ちきりでした。
後ほどまた詳しく聞いていきたいと思いますが、まずは一言、応援してくれたファンへメッセージをお願いします。
●大原洋人
今回の結果は、素直に嬉しく感じています。
試合会場には日本人も結構いたので、勝ち進む毎に「頑張って!」とか、沢山の人が声をかけてくれました。
また、日本でライブを見ている皆さんからも応援メッセージを沢山もらって、自分はもちろん、応援してくれている皆さん、全員の思いがつながって今回の結果に結び付いたんだと思っています。ありがとうございました。
■BCM
ハワイに戻ってからも、現地メディアの取材などかなり忙しかったと聞いていますが、反響はどうでしたか?
●糟谷修自
カリフォルニアからハワイに戻り、次の日には日本と提携しているローカルのラジオ番組出演。他にも別のラジオ局や新聞社のインタビュー。ハワイのメジャーなTV番組にも出演させてもらいました。
街中、コンビニでも「おめでとう!」と声をかけられたりもして、とても嬉しかったですね。
■BCM
WSLから直接インタビューを受けたり、有名スポーツ雑誌からのインタビューがあったりとも聞きました。やはり今回の優勝は凄い反響でしたね。
日本では深夜から早朝にかけてライブ中継が行なわれたため、BCMスタッフを始め、この日は寝不足だった人も多かったようです(笑)
■BCM
では『US Open』の話はまた後ほど。
まずは『US Open』の前に入ってきたビッグニュース『Hurley Pro at Trestles』のワイルドカード獲得についてお聞きしたいと思います。
昨年までのビデオトライアルに変わって開催された2つのワイルドカード枠をかけてのトライアル。今年は「Hurley」チームの8名、サンクレメンテローカルの8名でそれぞれ争ったと聞いていますが、実は日本には終了後のWSLのニュース以外、ほとんど情報がありませんでした。
波は小さかったという話しや、リザルト等は見せて頂き、今回特集の前編記事でもご紹介したのですが、実際にはどんな状況でしたか?
●大原洋人
トライアルはカリフォルニアの“T-Street”という場所で行なわれました。
ちょっとクセのある難しい波なんですけど、15歳くらいの頃、近くに住んでいたことがあるんです。
波は小さくてコシ〜ハラくらいでしたね。他の選手は苦戦したようでしたが、僕はやりやすかったです。
■BCM
アレホ・ムニーツ、ヤディン・ニコルなど元CT選手含む凄いメンバーでしたが、当日はどんな雰囲気でしたか?相手は気にならない?
●大原洋人
昨年、プライム(現在のQS10,000)のシード権を獲得して1年回った経験が活かされたのかなと思います。
グレードの高いイベントでの試合は、CT選手との対戦も多くありますから。「慣れた」というのは言い過ぎですが、あまり相手は意識せず試合に臨むことができました。
■BCM
「Hurley」枠の8名に選ばれた経緯は?
いきなりカリフォルニアに呼ばれたの?
●糟谷修自
丁度、南アフリカの試合が終わって、次の「湘南 Open』へ向けて洋人は先に日本へ帰国していたのですが、「Hurley」のパット・オコーネルから「トライアルにぜひ来てくれないか」というメールを直接もらったんです。
トライアルは7月23日。日本滞在終了後、洋人は21日に一度ハワイへ戻り、すぐカリフォルニアへ。
私は後から、日本からハワイを経由(22日着で滞在は数時間)して前日の夜にカリフォルニア入りしました。
■BCM
かなり忙しいスケジュールでしたね。
●糟谷修自
日程はギリギリでしたが、既にカリフォルニア用の道具は全て揃えていましたし、サーフィンは試合モードでずっと続けてましたからね。
海外の試合を回っていると、このようなスケジュールもありますよ。
疲れさえ残っていなければ問題ありません。
■BCM
現在、大原洋人さんは糟谷修自さんが住んでいるオアフ島を拠点にしていると聞いていますが、どのように行動しているのですか?
●糟谷修自
ホノルル空港からダウンタウンへ向かう途中、今は私の家に住んでいます。
冬のノースシーズンは、「Hurley Japan」が用意している拠点がありますので、大橋海人や河村海沙、関本海渡らのチームメンバーと一緒に行動することが多いですね。
サウスの時期も、コンディション次第ですが1日に1〜2回は海に入ります。
特に誰と行動というのはないですが、交流はやはり海の中でしょうね。
コンディションの良い場所にはかなりのメンバーが揃いますので、刺激は多いと思います。
©WSL / Kenneth Morris
■BCM
『US Open』の話に戻りたいと思います。
昨年、2014年からのコンテスト結果を並べてみても、今回の「US Open」での優勝は突起(いきなり)していると思います。正直、別人にも感じられました。
『Hurley Pro』のワイルドカード獲得が自信になったようですが、それ以上にサーフィンが以前と変わったような印象でした。
やはり、それはオアフ島に拠点を移したことに関係しているのでしょうか? 何か特別にトレーニングはしていますか?
●大原洋人
そうですね。住む場所がハワイに変わり、普段からサーフィンする波も変わったという影響は少しあったと思いますが、それよりも修自さんと一緒に住んで行動するようになったことの影響の方が大きかったと思います。
今まで自分は日本がベースだったため、海外でのQSの試合は現地で合流していましたが、今年は一緒にいる時間が長いので色々な話し合いもして、やりやすくなっています。
トレーニングに関しては、特別なものは行なっていないんですよ。
■BCM
『US Open』で使用していたサーフボードは?
シェイパーとはどんな感じでコンタクトをしていますか?
●大原洋人
今はJSの「MONSTA 3」というボードを使用しています。
●糟谷修自
5月のブラジル戦で使用したボードをベースに「何が足りないか?」を一緒に考えていきました。
そうした改善点を直接ボードシェイパーに伝え、USオープンに間に合うように用意したんです。『Hurley Pro』のトライアルにも同じボードを使用しました。
■BCM
『US Open』ではジャッジを考えて、スコアが出やすい波を選び、スコアが出やすいターンだけに絞っていた印象でした。
つまり、以前と比べて無駄が無くなったと感じたのですが、その辺の意識、研究などは?
●大原洋人
波数の少ないヒートも多かったので、どこで待つか、ポジショニングを良く考えてヒートに挑みました。
途中、海の中で場所を変えるか迷うこともありましたが、タイミングも合って勝ち上がれたヒートも多かったと思います。
■BCM
『US Open』は観客動員数だけで見ればCTのどのイベントよりも多く、世界最大のサーフィンイベントです。
特にファイナルは7万人強と発表され、ビーチ、ピア、観客席、全て一杯でした。
恐らく、あんな状況でサーフィンするのは初めてだと思いますが、雰囲気はどうでした?緊張というよりも、逆にやる気に結び付くもの?
●大原洋人
「緊張」という感覚はあまり無かったですね。
確かにファイナルは海の中から見て「観客が凄い数だな」とは思いましたが、それだけの人が見てくれている、興味を持ってくれているわけだから、「ここで自分のサーフィンをして、しっかり見てもらおう!」と考えていました。
ファイナルの前、それまでのヒートもそうですが、ただそのヒートに勝つことに集中できていたような気がします。
■BCM
ファイナルの後半、追い込まれた状況でも冷静な感じがしましたが、あの時は何を考えていた?
●大原洋人
プライオリティ(波に乗る優先権)を持っていたので、落ち着いて波を待っていました。
でも波数がかなり少なかったですからね。
実はもしかしたら、このまま波が来ないで終わってしまうかな、と考えたりもしました。
逆転できる波が来るか、来ないでそのまま負けるのか。
でも、あまり考え過ぎていたら、最後の波は緊張してコケてしまっていたかもしれません。波が来ないで負けるなら、それも仕方ないかと開き直っていたのが良かったのかも。
残り数分、スコアできそうな波が入ってくれたので、後は思いっきりいきました。
■BCM
セミファイナルで対戦した五十嵐カノアはハンティントンローカルでもあり、同じ日本人としてまた注目を集めていましたが、彼との対戦はどうでしたか?
●大原洋人
彼はサーフィンも上手いですし、どこで対戦しても“戦いづらい相手”ではありますが、セミファイナルだったので、どんな相手が来てもおかしくないとは思っていました。
QSを回っていると日本語を話せるサーファーが少ないし、カノアとはよく話す仲です。
あの対戦は思い切り楽しめました。
■BCM
『US Open』の次はバージニアでのQS3,000『Vans Pro』に参加ですね。
ここでの戦い方はもう考えていますか?
●大原洋人
バージニアの波は日本に似ているし、少し慣れている感じはあります。
波をしっかり見て、自分のサーフィンをする。
サーフボードの選択をミスしない、といったことを考えています。
■BCM
9月はいよいよ『Hurley Pro』が待っています。
ワイルドカードの宿命としてR1はトップシードとの対戦になります。
コンテスト前や最中のフリーサーフィンを含め、何を学ぼうと思っていますか?
また、ツアーに沢山いる「Hurley」のライダーとのコミュニケーションは考えていますか? 仲が良い選手もいる?
●大原洋人
「Hurley」のライダーではQSも回っているようなコロヘ(コロヘ・アンディーノ)らは良く話しをしますね。
CT中心でQSにはほぼ参加しないジョンジョンらは、軽く挨拶する程度です。
CTは格上ですし、例えばケリー、ミックなどまだ対戦したことが無い選手とはどんな戦いになるか予想もできないし、ワクワクしています。
本当に楽しみですね。
■BCM
『Hurley Pro』のために特別にインタビューの準備はする予定?
●大原洋人
インタビューですか? 特に準備はしません(笑)
あまり得意ではないけど、そのとき感じたことを伝えられれば良いなと考えています。
●糟谷修自
洋人は試合よりもインタビューの方がよっぽど緊張していますよ(笑)
■BCM
ちなみに『US Open』の賞金の使い道は?
表彰台の最後の質問では「免許をとって車でも買いたいね」という名言(笑)が生まれたけど・・。
(海外の大手サーフィンメディア、SNS等でも“ジョーク”としてかなり話題に)
●大原洋人
あれは冗談で言ったわけでは無いんですよ、本当に(笑)
試合前にも丁度話していたのですが、もっと動きやすいように試合の賞金で安い車でも買おうかとか、まだ節約したほうが良いよねとか・・。
もう本当に買っちゃおうかな、車(笑)
■BCM
今年の後半スケジュールは?
「もしかしたら、今年中に」と期待しているファンも多いと思いますが、“クオリファイ”に向けて具体的な数字を考えてイベントを選ぶのでしょうか?
●大原洋人
後半戦、『Hurley Pro』の後のスケジュールはもう全て決まっています。残りのQS10,000は全て出場する予定で、ポルトガルの後、ブラジルは6,000の試合も出ます。最後は年末のトリプルクラウンですね。
クオリファイはもちろん意識はしていますが、今後の結果次第ですよね。このままやれるだけやって、どこまでいけるか。 今回の優勝でかなり近づいたと思うので、チャンスは最大限に活かして後半戦も頑張りますが、その結果がどうであれ、自分はまたチャレンジし続けるだけ。そんな感覚でいます。
●糟谷修自
残りのQS10,000など、ハイグレードなコンテストは貴重ですから、しっかりと体調を管理して一つ一つの試合に臨んでいきます。
これまでの試合、今回の優勝、そして9月のCT参戦。これら全てが良い経験となり、さらに今後の戦略や課題点などに活かすことができます。
後半戦も気を引き締めて、一番良い状態で臨んでいきます。
■BCM
試合で世界を転戦していると忙しいですね。日本に帰国できる予定はあるんでしょうか。
●大原洋人
バージニアが終わった後、一度実家に帰る予定です。ちょうど千葉で全日本選手権(NSA)も開催されている頃ですし、子供達のサーフィンも見たいですね。
■BCM
最後になりますが、今回の『US Open』の優勝というニュースは日本でも新聞やテレビで取り上げられたり、話題になりました。
最近はコンテストに興味がない人も多いようですが、世界の大舞台での優勝は日本人として誇りや力になり、関心を持った人が多かったと感じます。
これをきっかけに、もっと沢山の人にコンテストの世界を知ってもらえれば良いなと考えていますが、その辺りはどう思いますか?
●糟谷修自
本当にそうですね。
コンペティションの世界は自分も現役時代から常に見てきましたが、技術レベルは大きく変化・成長をしています。
私の周りにも「見ていると本当に面白い」と言ってくれる人が増えているんですよ。
ジョン・ジョン、ジュリアンなどのビッグウェーブでのパフォーマンスはもちろん、フィリッペなど小波でのテクニックも、これまでのサーフィンでは信じられない動き、そのメイク率も本当に凄いと思います。
日本の皆さんにも、今回洋人が頑張った結果が引き金になり、やる気を出してくれたら嬉しいと思います。
メーカーは関係なく、同じ日本人として皆が一丸となり、応援してくれたら選手にとってもこんなに心強いことはありません。
見守って、興味を持ってくれたら嬉しいですね。
インタビュー終了後、現地ハワイより
『US Open』での優勝、9月に行なわれる『Hurley Pro』のワイルドカードでの出場。
一気に世界のサーフィン業界で注目される選手になった大原洋人。
QSで最もグレードが高い10,000『US Open』の優勝で81位から13位までランキングを上げ、クオリファイの条件であるQSのトップ10入りの可能性も出てきたことで周囲の期待も今まで以上に大きくなっていますが、今回受けた印象では良い意味でマイペース。チャンスを最大限に活かして後半戦に挑みたいと言いつつも、そのチャンスは今年に限ったものではなく、目標も努力次第でいつかは手が届く場所、そんな風に大きく構えているような印象。
『US Open』でのインタビューの受け答え然り、18歳(今年の11月で19歳)とは思えない器の大きさも感じることができました。
2020年の東京オリンピックの追加種目にサーフィンが選ばれる可能性もあり、サーフィンがライフスタイルの一環だけではなく、オーストラリア、アメリカ、ブラジルのようにスポーツとしても認められ、社会的地位が向上する方向にある現在。
彼の活躍がそれを後押ししてくれたとも言えます。
『US Open』の優勝で得た感動を再び。
世界最高峰の舞台を目指している彼の挑戦を応援すると同時に、彼に続く日本人選手が出てくれることも望みたい。今後もBCMは日本人選手のチャレンジを伝えていきたいと考えています。
取材協力 Hurley Japan/Terrestrical Inc
写真提供 糟谷修自、大原洋人(instagram)
Hurley Japan
web http://www.hurley.jp/
facebook http://www.facebook.com/HurleyJapan
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